動物の標本を収集していると、時にイレギュラーな個体と遭遇することがあります。
例えば骨折の既往、奇形、病気などです。
骨折や奇形は骨に残り易いですが、病気はなかなか骨からわかることがありません。しかし、骨に影響を残す病気もあるのです。
その一例が『ガン』です。
ガンは全身のどの器官・組織にも発生し得る病気ですが、骨そのものにガンが発生するか、軟組織のガン細胞が骨に入り込んで増殖していった場合には骨にその痕跡を残すことになります。
という訳で、今回ご紹介するのは、口腔ガンが骨に浸潤したイエネコの病理標本です。
上から
下から
正面から
右から
左から
下顎
上顎の右前側、下顎の左前側が膨らみ海綿状になっているのが見えます。ここにガン細胞が入り込み増殖したことで骨の中が溶け(破壊され)、ガン細胞の膨らみに合わせて骨も膨らんでいったのです。
歯槽骨の破壊により犬歯は既に脱落していたようです。
ここまで広がっていたら、さぞ痛かっただろうなと思います。餌を食べるのにも苦労したでしょう。
この個体の味わった苦痛を考えると、とても悲しい気持ちになります。
しかし、こうした病気の痕跡を標本として残すことは、病気を研究し理解することに役立ちます。私は研究者ではありませんが、看護師として様々な病気の方をケアするうえで、病気の理解を深めるための貴重な資料として活用しています。
多くのペットは亡くなったら火葬か土葬されると思います。仮に獣医さんから標本として残したいと頼まれても、飼い主さんは嫌がるでしょう。
それ故、このようなペットの病理標本は希少性が高いといえます。インターネットや書籍でも同様の標本の画像は見つけることができなかったので、これを公開することで皆さんが病気を理解するきっかけになれば幸いですし、この個体の苦労も報われることでしょう。
それでは、また。