これまでいくつかの頭骨や骨格標本をご紹介してきましたが、今回と次回はどのようにこれらの標本を作っているのかお話ししたいと思います。
まず標本作成のためには動物の遺体がなければ始まりません。なので、今回は私の経験に基づく遺体の入手方法と、その利点欠点についてお話します。
①ロードキル
交通事故で亡くなった個体を回収する方法です。標本作成をしている方の多くがこの方法で入手しているのではないでしょうか。いずれまとめますが、ロードキルの発生しやすい条件というのもありますので、探索する地域に合わせて探し方を工夫すれば発見率も上がります。
利点:お金がかからない(ガソリン代くらい)。
遺体の鮮度が良い(例外あり)。
発見場所と生息地が一致する。
欠点:遺体の損傷が生じており、時に修復不能なレベル。(小型種ほど損傷は大きい)
常に発見・回収できるとは限らない。
車やバイクが無いと不便。
回収時、自身が事故に合うリスクがある。
動物種を選べない。
物言わぬタヌキの背中
発見・回収できるかは運と状況に依るところが大きいですが、探索する地域に生息する動物なら何でも発見できる可能性はあります。
②自然の中で探す
山や海などで遺体を探す方法です。自然死(ケガ、病気、衰弱など)したものや、猟師が放置したものが主に見つかります。
利点:お金がかからない。
生息環境の情報も得られる。
海岸に漂着する場合、遠隔地の動物も入手できる可能性がある。
海の動物(鰭脚類、鯨類、魚類、海鳥など)が入手できる。
欠点:他の動物に食べられてバラバラになっていると、1個体分を回収できない。
常に発見・回収できるとは限らない。
猟師が放置したものの場合、部分的に切り取られていることがある。(鹿の角など)
山で拾ったニホンジカ(オス)角が切り取られている
探索するには体力が必要ですし、熊との遭遇や遭難、海への転落など事故にも注意が必要です。食い荒らされていることが多いですが、自然界における動物の遺体の意義も考察する機会ともなるでしょう。
③購入する(剥製業者、標本販売店)
今やインターネットで何でも手に入る時代ですね。
利点:輸入も扱う業者なら大抵の動物種が入手可能。
プロが作成したものは仕上がりも綺麗。
標本作成の手間がかからない。
お手軽に入手できる。
欠点:お金がかかる。数千円~百万円以上と種により値段も違う。
採集データは付いてないことが多い。(採集地、年月日など)
既に完成しているため解剖による観察ができない。
詐欺サイトの可能性があるため、信頼できる店舗か確認が必要。
業者から購入したビーバー
④購入する(オークション、フリーマーケットアプリなど)
主に個人が出品した標本を入手できます。
利点:手軽に入手できる。
出品者=採集者の場合、必要なデータを得られることもある。
出品者が専門知識をもっていない場合、相場より安価に入手できる可能性もある。
稀に飼育個体の遺体が標本材料として出品されることがあり、レアな種を解剖し観察するチャンスがある。
欠点:個人間の取引となるためトラブルに注意。
標本データが付かない場合も多い。
相場以上の値がついていたり、オークションでは競り合いで価格が高くなることがある。
素人作成の標本や拾い物の場合、欠損や処理不足などがある。
ヤ〇オクで落札したゴライアスガエルのプラスティネーション
1品限りの品が多いため、珍品を求める方はこまめにチェックするといいでしょう。
⑤購入する(食料品店)
食材として取り扱われるものを購入して標本にする方法です。
オーソドックスなのは豚足、豚頭、手羽先、フライドチキン、魚など。
利点:身近な店でも入手できるため、最も効率的かつ手軽。
複数購入することで練習を繰り返せる。
食べながら作れて一石二鳥。
食材として見慣れているため抵抗感が少ない。
欠点:店によって扱っていないものもある(特に豚頭)
食用となる豚や鶏は若いため骨の成長が未熟であり、骨端が外れたり、軟骨が多かったり、骨が脆かったりする。
販売されているのは丸鶏や魚以外は部分的なものが多く、全身の骨は入手困難。
定番の豚足
手軽かつ安価な食材は初心者向けです。販売店の方との交渉次第では店頭にない部位も取り寄せてくれることもあります。
⑥捕獲する。またはそれを貰う(購入する)
自ら生体を捕獲したり、知人が捕獲した獲物を頂く、あるいは買い取る方法です。
捕獲方法は、狩猟、ネズミ捕り、釣り、網など。狩猟鳥獣、ネズミ、モグラ類、爬虫類、両生類、魚類などが入手できます。
利点:標本データが得やすい。
新鮮な標本が入手できる。
狩猟の場合、ロードキルでは入手困難な種(クマやイノシシ)も入手可能。
対象の選択が可能。
食材としても利用可能。
欠点:貰うには人脈が必要。
狩猟シーズン以外は入手困難。
銃創による損傷が生じることがある。
狩猟個体のヒグマ
ツテさえあれば容易に入手できますし、いっそ自分が狩猟免許を取って自ら獲るということも有りですね。非狩猟鳥獣や保護対象など捕獲に制限のある動物は禁止です。
⑦飼育個体を標本にする
野外で採取したり、ペットショップで購入したりして飼育した個体を死後標本にする方法です。知人が飼育していた動物の遺体を譲り受ける場合も含みます。
利点:飼育中に生態を観察することができ、標本化する過程で形態との関連性を観察できる。
標本に、より愛着を持って扱える。
欠点:心理的な抵抗がある。
長命な種では飼育期間が長くなる。
飼育スペース、飼育費用が必要。
ピラニア・ナッテリー
注意点として、飼育に許可が必要であったり飼育が禁止されていたりする動物もいるので、法にひっかからないよう事前に確認が必要です。
⑧その他
上記以外で私が遺体を発見、入手した方法です。
1)空き缶
ゴミ拾いしていたら空き缶の中からネズミの遺体が出てきました。動物が入り込める人工物はその中で亡くなっていることもあるようです。
2)用水路の桝(ます)
用水路に落ちて亡くなった齧歯類やモグラ類は流されて桝に溜まっていることがあります。
3)廃墟、廃屋
人の利用しなくなった建物はタヌキ、ハクビシン、ネコ、コウモリ、ネズミなどの住処となっていることがあり、その場で亡くなった個体を見つけることもあります。(廃墟といえども他人の敷地ですので、無断で侵入するのは犯罪です)
4)ガラス、建造物に衝突した鳥
鳥はガラスや建造物に衝突して亡くなることがあります。職場で窓ガラスに衝突死したキジやスズメをもらったり、橋脚に衝突したマガモが目の前に落ちてきたりしたこともありました。
以上。長くなってしまいましたが、動物の遺体を入手する方法はたくさんあります。利点欠点を考慮し、色々探してみましょう。
それでは、また。