スカベンジャーの標本部屋

本業は看護師ですが、趣味で動物骨格標本を作成しています。

失敗例とか

 地元では入手できない動物の標本はオークションやフリマアプリで購入することが多いのですが、妻に迷惑をかけぬよう、受取りは最寄りの宅配便営業所にしています。
 しかし、今回は受取り場所の変更手続きをする前に届いてしまい、仕事中に妻からLINEが来てました。
 それでもちゃんと受け取ってくれる優しい妻に感謝です。

 さて、そんな感じで失敗ばかりの人生を送る私の骨格標本作成・収集にまつわる失敗例をご紹介します。
 自身への戒めも込めつつ、これをご覧になる皆さんが同じ轍を踏まぬよう参考になれば幸いです。

1)紛失
 まれに標本をなくしてしまうことがあります。標本の収集に関して最悪の事態といえるでしょう。標本そのものがなければ観察も研究もできないのですから。
 なくしてしまう状況は様々で、主に作成の過程で無くすことが多いです。
 丸ごと無くす場合もあれば、一部分を無くす場合もあります。
 私は骨格標本を作る目的で初めて拾ったのがノウサギでした。剥皮、除肉をして水を張った発砲スチロールの箱に入れ、家の裏に置いておきましたが、翌朝見たら何者かに箱は噛み壊され、ウサギも持っていかれていました。
 あと、ロードキルのネコを発見したけど事情により拾うことができなかったため、道路脇の草むらに隠しておいたら、翌日には食い散らかされてほとんど残っていなかった。なんてこともありました。
 その他にも、池で腐敗させていたらカメか何かにネットを食い破られて一部が無くなっていたり、骨を洗浄する際に誤って細かい骨や歯を流してしまったり、土中で腐敗させた骨を全て回収しきれなかったりしました。

・対策
①野外に放置する際は、動物に開けられない&壊されない頑丈なコンテナやカゴを被せ、その上にコンクリートブロックなどの重石をのせる。
②池に浸けておく場合は、その場の生態系を把握しておき、カメやザリガニが多い場所を避けたり、丈夫なカゴで囲うなどの対策をする。
③細かい骨は小分けにしておき、洗浄は貯め水で行い、排水もネットやザルで受ける。

2)破損
 野外で拾ったり、狩猟で採集したりする遺体の多くは既に骨が破損している方が多いです。それは仕方ありません。しかし、標本作成の過程で自ら破損させてしまったら、そのショックは相当なものですね。
 私の場合、実家では作業スペースがなくて床でモグラの骨を組み立てていたら、母親にモグラの頭を踏み潰されました。
 また、小型の哺乳類や鳥類、爬虫類などは肋骨が細いため、除肉の際に力が入ると折れてしまうことがあります。
 成体・老成体の鳥類の脚は、腱が硬くて骨と区別がつきにくいため、腱を切ろうとしたら間違って腓骨(ひこつ:下腿の外側の骨)を切ってしまうこともあります。
 完成した後も、管理状況や扱いによっては、落としたりぶつけたりして破損することもあります。自分だけでなく、家族にも注意を促しておいた方が良いでしょう。
 ただし、骨は破損しても接着して修復が可能なのでよほど粉々にでもならない限り、重大な問題にはなりません。
 しかし、路上で外傷の目立たないきれいなタヌキの遺体を発見し、車を停めて拾いに向かった目の前で後続車に踏み潰された経験もあります。

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以前も載せた、姪に握り潰されたアカネズミの肋骨

・対策
①骨を扱う時は十分な作業スペースを確保し、作業中であることを家族に知らせておく。
②解剖にあたっては、対象動物の骨の構造を十分に理解し、慎重に取り扱う。
ロードキルの場合、遺体の前に車を停めて後続車に踏まれないようにする。回収は素早く。
④除肉の際の力の入れ方は経験を積むしかない。
⑤骨の扱いは丁寧に、保管は厳重に。

3)劣化
 骨は硬い組織のため、きちんと作られれば半永久的に保存が可能です。しかし、作成方法に過誤があれば骨を劣化させてしまい、保存が難しくなってしまうことがあります。
 パイプ洗浄剤を用いた方法を試してみた時、濃度が濃ければ早く溶けるのではないかと考え、豚足を原液に浸けたところ、骨の表面までボロボロに溶けてしまいました。
 あとは、自分が作ったものではありませんが、フリマアプリで購入したニホンザルの頭骨は表面が浮いて白く粉を吹いた状態でした。おそらく漂白の工程で濃度が濃かったか、浸ける時間が長かったのだと思います。
 その他、土や砂に埋める方法では土が酸性に傾いていたり、長期間埋めていたりすると骨が劣化してしまいます。
 いずれの事例でも、頭蓋や長幹骨(四肢の長い骨)など硬くて厚い骨は形を維持できますが、眼窩底、鼻の中の篩骨、肋骨、肩甲骨、小型種の骨など薄い・脆い・小さい骨は原形を留められなくなってしまうため注意が必要です。

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漂白剤により表面が劣化したニホンザル
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眼窩底の薄い骨に穴が開いている
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実験的に1年間以上野外に晒したブタの頭骨

・対策
①薬品を用いる際は、適切な濃度と浸け置き期間を調べて行う。
②土や砂に埋める際は、土壌の性質を確認し、動物のサイズ、状態に応じて掘り出し時期を検討する(ここも経験次第)。
 
4)カビ、コケ
 骨にカビやコケが生える例です。
・原因
①カビ:主に黒カビが多く発生。
 関節を残して作成、表面に軟組織が残っている、内部の脂肪が表面に浮き出ている、などの標本の状態に加え、湿度の高い環境に保管されていた場合に発生しやすいです。
 カビが生えると骨の表面に黒い点が見られ、徐々に拡大していきます。放置すると骨の劣化の原因となるため、漂白剤などに浸けてカビを死滅されなければなりません。
 ちなみに標本の作成過程で軟組織に綿状のカビが発生することもありますが、こちらは最終的に軟組織が除去されればなくなるので問題ありません。
②コケ:前回も説明しましたが、水に浸ける方法をとった場合、日光が当たる場所に置いているとコケが生えます。
 コケ自体は骨を損傷されることはまれですが、コケの種類によっては骨の内部に根のようなものを張るため、完全な除去が難しくなります。
 乾燥させた後、こそげ取り、漂白剤に浸けてみましょう。

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イヌの上腕骨。うっすらと黒いカビが生えている

5)着色
 骨に色が染み付いてしまう例です。形質学の研究に支障はないので、私は気にしませんが、一応。
 色は様々で、黒や茶、オレンジ、ピンクなどあります。
・原因と対策
①黒:嫌気性の微生物の仕業という説があります。確かに密閉環境で腐敗させると黒くなるようです。
 また、カラスは羽と一緒に水に浸けると骨が黒くなります。
 対策は、腐敗させる方法では酸素の供給を絶たないこと。カラスは羽を完全に除去しておく。
 漂白でほぼ除去可能です。
②茶:土の色が染み付くことで生じます。土や砂に埋めたり、山野で拾ったりした場合に多いです。または、泥の多い池に浸ける場合にも見られます。
 漂白によってある程度除去可能ですが、完全には取れないこともあります。
 着色させたくない場合は他の方法で作成しましょう。
③オレンジ、ピンク:原因ははっきりとはわかりません。水に浸けて腐敗させた際に見られるので、腐敗した組織の色素(ヘモグロビンとか?)が何らかの原因で沈着したものと考えられます。
 同様の条件で作成したつもりでも、着色するもの、しないものがあるので、原因、対策は明確ではありません。
 とりあえず、腐敗法を行う場合には極力筋肉を除去しておくことと、水替えを定期的に行うことをお勧めします。
 この色は漂白でもあまり効果が得られないことが多いです。

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黒い着色が見られるニホンザル
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ピンクの着色が見られるキツネ

6)死蝋
 脂肪分が石鹸のように固まり、骨にこびりつく状態です。ロザリオ・ロンバルドなどミイラの作成のため人工的に作られるものもありますが、骨格標本には邪魔な存在です。
 原因としては、低温とアルカリ性の影響と言われていますが、調べてみたけど化学の知識が乏しいので理解できませんでした。
 私の住む岩手県は寒冷地のため、標本を腐敗させる際に低温にさらされることがあります。特に水に浸ける場合によく死蝋化させてしまいます。しかも、死蝋は茹でても薬品に浸けても取れないので、手作業でこそげ取るしかありません。
 対策としては寒い時期は腐敗法を避けるか保温する。万が一死蝋化したら、手作業で地道に取る。くらいです。
 例外として、屋外の風通しの良い乾燥した日陰に数年放置した標本は死蝋がなくなっていたので、何かしら除去する要素があるのかとは思います。しかし、それがなんなのかは不明。

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イヌの上腕骨。白いところが死蝋化した部分。

7)混入
 異なる個体の標本が混じり合って、どれがどれかわからなくなってしまうことです。そうなると標本としての価値がなくなってしまいます。
 きちんと管理していればそうそう起こることではありませんが、複数の遺体や標本をまとめて扱っていたり、保管棚・容器が破損したりして起こる場合があります。
 (東日本大震災では棚は倒れなかったけど中身が飛び出して散乱してしまいました)
 対策は、標本の作成や観察は個体ごとに扱う。個体ごとにネットやチャック付きポリ袋にまとめたうえで容器や棚に保管する。地震対策、保管棚の整理整頓と劣化の有無の点検を行う。

8)虫による標本の食害
 骨を食べられることはまずありませんが、関節を残した標本の関節部分がカツオブシムシなどに食べられることで、関節がバラバラになってしまうことがあります。
 虫に食べられると標本の下に粉のような糞と、サナギの殻などが見られるのですぐにわかります。早期発見・早期対処すれば被害は少なく済みます。
 対策は防虫剤・殺虫剤を効果的に使う。気密性の高い容器で保管する。それ位しかないかな。

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カツオブシムシに食べられたモグラ。サナギが散乱している。むしろきれいになった。

9)その他
 失敗の場面は標本の作成、保管だけではありません。
①詐欺
 ネットショップで標本を購入し、代金を振り込んだけど音沙汰がなく、調べたら架空の会社だった。
②交通事故
 雨の日、夜勤明けにロードキルを探して車で徘徊していたら、眠気と視界不良でカーブを曲がり損ねてガードレールに衝突。廃車になりました。

 私は水に浸けて腐敗させる方法をとることが多いので、失敗例もそれに関連したものが多いですね。
 失敗を重ねることで新たな発見も生まれますし、色々経験を積まないと加減もわからないのが骨格標本作りの難しさと面白さだと思います。大事なのは、失敗を恐れるよりも、そこから何を学ぶかです。
 どんどんチャレンジして、失敗の原因と対策を考察していけば、より良い研究に発展していけるでしょう。

 それでは、また。