最近は新しい遺体を入手できていないので、この隙に作業中の骨達の処理を進めていきたいところですが、連休中は子どもも家にいるので中々進められず、結局溜め込みっぱなしの状況です。
前回はイヌの歯周病についてお話ししました。
動物医療の進歩や飼い主の飼育意識の変化などによりペットの平均寿命は延びていますが、それに伴い高齢ペットの問題も生じているようですね。
実は野生動物の中にも生存競争に勝ち残って通常より長生きする個体もいます。しかし、ペットと違い人の手を借りることはできないので、体の衰えはまさに死活問題となります。
今回ご紹介するのは、高齢のホンドギツネです。
3月に岩泉町の岩洞湖近くで回収しました。(発見時の写真は4月の『キツネ』のおまけで紹介しています)
まだ肉を腐らせて晒骨させただけなので、完成品ではありませんが、歯の様子は十分に観察することができます。
上から
下から
左側面
右側面
下顎
全体像はこんな感じです。所々見られる白い物体は屍蝋です。
骨質や大きさは他の成体の個体と大差ありません。雄の成体の割に外矢状陵はあまり発達していませんが、頬骨弓はやや張り出してるように感じます。
所々歯がありませんね。通常、除肉した際に歯は抜け落ちることが多いですが、この個体は除肉によって抜けたのではなく、元から無かったのです。
上顎先端。門歯全てと右第一前臼歯が脱落しており、犬歯も左は折れ右は磨耗している。
上顎奥側。後臼歯が脱落。残った臼歯も磨耗している。
左下顎先端。門歯、犬歯が脱落。
左下顎奥側。臼歯が極端に磨耗している。
右下顎先端。門歯が脱落。犬歯は根本から折れている。
右下顎奥側。左と同様臼歯の磨耗。
中間の臼歯以外はほとんどが抜け落ちてしまっています。通常、歯が抜けた跡には歯根の収まってた穴が残りますが、歯の脱落後、徐々に穴は塞がってきます。
この個体は穴がほぼ完全に無くなっているので、門歯、犬歯、臼歯が脱落した後も相当の期間生存していたことがわかります。
臼歯の磨耗が激しいのは、他の歯が脱落したことで噛み合わせのバランスが崩れたためと考えられます。
上の犬歯は辛うじて残っていますが、先端が失われていて、下の犬歯も無いため、犬歯としての機能は果たしていなかったでしょう。
キツネは肉食傾向が強く、小動物を捕らえたり死肉を噛みちぎったりするためには門歯と犬歯の役割が重要になりますし、肉や骨を噛み砕く臼歯も不可欠なものであります。
これらの歯を失うことは非常に大きなハンデとなり、生存は困難となるのでしょうが、この個体はそれでも生き永らえることができる程の生存能力を有していたと言えます。あるいはこのような状態でも生存できる環境が整っていたのかも。
岩泉は自然豊かで広大な山林が広がっており、岩洞湖はワカサギ釣りでも有名なので、餌となる動物も豊富ですし、人の出したゴミも餌として活用できていたのかもしれません。
しかし解剖時に胃内容物を確認したところ、消化されかけのヒミズのような手足と体毛が認められたくらいで、満腹ではなかったようですし、体格はやや痩せぎみでありました。
個体の持つ能力と運、環境が生存を助けてくれていたのでしょうね。
それでも最期は車に轢かれるという不本意な終わり方であったのは、残念なことです。3月とはいえまだワカサギ釣りのシーズンで深夜からレストハウスは満車になっていたので、釣り人の車に轢かれたと思われます。
釣りをされる方は深夜、早朝から行かれることも多いと思いますが、ロードキルにはくれぐれもご注意ください。
それでは、また。