今回は長い話になります。
ちょっと前にTwitterでペットの標本を作ることについて話題が上がっていたので、便乗して私のペットと標本との考えを語ります。
故ネコ達
私は自分の飼育していた動物が亡くなった時には骨格標本を作りたい派です。
それが哺乳類であれ、爬虫類であれ、魚類であれ、扱いに変わりはありません。野生動物も飼育動物も、遺体になった時点で同じ『遺体』です。
多くの人は長い間共に過ごしたペットを家族として捉え、死後はヒトと同じように火葬や土葬をして弔ってやりたいと考えるでしょう。しかし、私は神も仏も霊も信じていないので『弔い』という考え自体がありません。
これはペットへの愛情の有無や深さとは別の感覚です。死して尚、共に居たいと願う気持ちは誰しもあるでしょうが、それが所謂『魂』としてなのか、『実体のある標本』としてなのかの違いだと思います。
趣味で標本を作っているので、動物の遺体が手に入る機会は貴重であると考えていることも影響しているのは自覚しています。そして遺体といえども動物の体に刃を入れることを「かわいそう」と思う気持ちも分かりますが、逆に灰にして壺に納めてしまう方が「何の役にも立たない物質に成り下がってかわいそう」と感じてしまいます。せめて埋葬すれば他の生物の糧として役立てられるでしょうが、生の遺体はその地域に存在しない微生物や病原体を拡散させる可能性があるのでお勧めできません。
ならば標本を作ってやるのがベストなんじゃないかな?
というのが私のペットに対する死生観です。分かってほしいとは思うけど、無理だと思う人もいるでしょう。
では、標本を作りたいという人に対して何が言えるかというと「応援はするけど初めての人にはお勧めしない」です。
これはTwitterで他の方が仰っていたように、初めての骨格標本は失敗するからです。必ずではないにしろ、満足する出来は期待できません。魚類、両生類、爬虫類、鳥類は頭骨がバラけやすく、体の骨もバラけると繋がりがわかりにくいです。
哺乳類は頭骨だけならなんとかなりますし、関節も適合する骨同士しか噛み合わないので根気強く合わせていけば形にはなるでしょう。でも若い個体では頭骨がバラける可能性があり、関節の頭も未熟で成体ほど関節面がはっきりしていません。
「バラバラになったものを組み立てるのが標本作りなのは覚悟してるし、調べながらやれば出来るのでは?」と思う人もいるかもしれません。が
ブラッドパイソンの全身
頭骨のパーツ
ヘビの場合こうなります。脊椎は紐を通していますが、全てバラすともはや順番通りに個々の繋がりを特定することは不可能です。これはヘビに限った話ではありません。さらに、
ブラッドパイソンの牙
メーターオーバーのヘビでさえ、1㎜あるかないかの牙も数十本あります。総数も3桁。そしてすぐ抜ける→はまる穴は特定不能→どうしたら良いかわからない→途方に暮れる。
こうならないために、除肉の作業は「バラバラにならないけど、骨が観察できて肉や脂が十分に除去できている状態」を目指さなければなりません。この加減が難しく、知識より経験がものを言うのです。
プロの作った標本を見て「自分も標本を作れるかも」と思っても、プロの方々も長年試行錯誤を繰り返し、知識・技術・経験を蓄積しているからこそ素晴らしい標本が作られているのです。
格好良く仕上がった全身骨格を夢見て作業してみたけど手を出せない状態になって泣く泣く捨ててしまうことになったら悲しいですよね。
私は震災で停電になった際、当時飼育していた熱帯魚が全滅しました。ピラニア・ナッテリー、タイガー・ホーリー、プロトプテルス・アネクテンスを標本にしようとしましたが、魚類自体が初めてだったので、プロトプテルスは顎しか残せず、ピラニアとホーリーは「形だけは残した状態」という散々な結果に終わりました。
ペットの種類にもよりますが、まずは哺乳類から練習してみましょう。餌用マウスかラットなら用意に入手できますし、YouTubeにも作り方が紹介されています。あとは手羽先、鶏ガラ、豚足がスーパーで買えます。
魚も食用なら簡単に買えます。
爬虫類や両生類は餌用として流通しているのは、アフリカツメガエルやヤモリあたりですが、小さいので難易度が高いです。轢かれたヘビを拾う方が良いかもしれません。
練習を繰り返し、自信がついたらペットの標本に挑戦するのが無難です。自信がなかったら素直に標本作成業者に依頼しましょう。お金はかかりますが、それ以上の価値ある仕上がりが期待できます。骨を失って泣くより、お金を払って笑える方が幸せです。
そして、ペットの標本を作るうえで何より優先するべきなのは「家族の同意を得ること」だと思います。
一人暮らしで飼育しているのなら問題ありませんが同居家族がいる場合、『一緒に飼っていたペットを標本にすること』『家で標本作成作業をすること』場合によって『遺体を冷凍庫で保管すること』について了解してもらわなければなりません。
専用の冷凍庫を用意できるなら良いとして、食品用の冷凍庫に遺体を入れることは衛生面の心配もありますし、何より心理面から拒絶されるリスクが非常に高いです。
また、先述したようにペットの遺体を解体することに抵抗がある人もいるでしょうし、キッチンで遺体を茹でたり、ベランダで腐らせたりするのも抵抗されることは想像に難くありません。
亡くなる前からこれらについてきちんと話し合い、了解を得ておかなければ、関係悪化を招いたり標本作成という行為に否定的な感情を持たれたりします。
私の場合、魚類や爬虫類は私個人が飼育していたので問題ありませんでしたが、ネコは家族全員で可愛がっていたので解体に反対され実施できませんでした。なので家の敷地内に墓を作って埋葬し(これも良くないのですが)、1年後にこっそり掘り返して頭だけを回収して標本にしました。
この方法は細かい骨や歯がなくなったり、土の色が染み付いたりするデメリットがありますし、墓を暴いている所を家族に見られたらヤバいです。
ハナちゃん
ナナちゃん
上の2頭がうちのネコ達です。
標本になってから事後報告をしてビックリされましたが、標本を作って分かったことを説明したら興味をもって聞いてくれました。
今実家にはまだ2頭のネコがいます。うち1頭は3年前に口腔腫瘍ができて獣医の診察を受けたところ、「手術しかないけど、年齢的に耐えられるか分からない。無治療なら長くはない。どうするかはお任せします」と言われました。家族で話し合った結果、このまま様子を見て痛みが出るようなら相応の処置をすることとなりました。
ところが、2ヶ月経つ頃には腫瘍が無くなっていたのです。獣医さんの誤診だったのか何かしらの影響で縮小したのか分かりませんが、今でも生きています。
この子の体で何が起こっていたのか、それを解明するために今回は解剖したいと考えています。
標本を作る意義は自分の興味を満たすことだけではなく、将来に活用するためにあると考えています。むしろ科学的にはそっちがメインです。これは個人がペットの標本を作る時にも同様です。今飼っているペットが亡くなった時、「その身体を調べ、形に残しておくことで次のペットを飼育する際に役立てられることがあるかもしれない」そう理解してもらえるように説明すれば、家族も標本にすることを許してくれるかもしれません。
色んな思いがあるので長々と書いてしまいました。ペットを標本にすることに抵抗がある人の気持ちは理解しますが、その上で標本にしたいという考えも理解して貰えたら嬉しいと思います。
それでは、また。