前回ハクビシンを解体している間、午前と午後の2回、地域でツキノワグマの目撃情報の放送が流れていました。私自身も自宅裏の川でツキノワグマに遭遇したことがあり、クマの存在は身近なものだと思っていましたが、最近は全国的にも目撃情報や被害の報告を聞かない日はないような状況になっていますね。
という訳で、『クマ外傷(中永士師明 編著、新興医学出版社)』という本が昨年出版されましたので、読書感想文的な独り言を。

タイトルの通り、クマによる心身の外傷に対する治療についてまとめられた医学書です。医学書なので当然医師向けの内容となっていますが、近年のクマ被害のニュースの増加のせいか医療者以外の読者も多いようですね。
実際、外傷治療だけでなく、クマの生態や現代社会の問題、被害の予防策、被害を受けた時にとるべき行動など、医師以外の人にとっても有益な情報がわかりやすく書かれています。赤い画像が苦手でなければ、自身を守るためにも一読する価値はあるでしょう。
ただ、SNSで見てみると本書を読んだ人の多くは、クマ被害の悲惨さを強調し、クマ駆除の正当性を訴える手段に使っているような気もしなくはないなぁ、と思ってしまいます。
クマを駆除することに対して「かわいそう」という感情論で抗議する輩に向けた言葉であり、それについては私も気持ちは同じです。被害に会ったこともなく、リスクもない場所に居座っている部外者が、危険と隣り合わせにいる人を非難してきたら腹も立ちますよね。
本書を執筆した先生方も、被害者の方々が心身共に苦痛を抱く姿を目の当たりにしながら、持ちうる限りの技術を駆使して命と心を救うために尽力されてきたのですから、クマを擁護する気持ちは持てないかもしれませんが、それでも「クマ憎し」という思いだけでもないようです。
「クマの被害を減らすためには駆除しかない」という短絡的な考えではなく、自然界におけるクマの役割と現代社会の問題を踏まえたうえで、「クマを正しく怖がり、本治としてクマと共生できる防止策を社会全体で考える時が来ているぞという大自然からの警告かもしれない(あとがきより)」と締めくくっています。
被害を減らすために駆除も効果的な手段の一つではあるものの、それと並行して一人ひとりが正しい理解をもって対策していくことの大切さを啓発するうえで、本書の果たす役割は大きいと言えるでしょう。
おしまい。