秋田県で建物に侵入した親子熊3頭を殺処分したことに対して苦情が殺到しているらしいですね。
『命を大切に』という考えは日本人なら幼少期から教え込まれてきたことであり、間違った考えではないでしょう。しかし、ヒトは独自の社会と生活環境を作り自然界とは一線を画した生き方をしているように見えても、自然と断絶して生きることのできない生き物であり、生命や生活、仲間を守るため野生動物の命を奪う場面があるのもやむを得ないことだと思います。
有害駆除や外来生物駆除、ノネコ・ノイヌ駆除などに対して「殺される動物がかわいそう」という理由だけで批判する人は、その動物の一側面(主に外見と自分の都合)しか見ていないように感じます。
今回は重いテーマではありますが、野生動物の生き死ににヒトがどう介入していくのか、私の考えを述べていきます。
先日、数ヶ月ぶりに夜中のドライブをして最初に見つけたのはタヌキでした。
白線上に横たわるタヌキを発見し、いつものように手袋とゴミ袋を用意して回収に向かったのですが、タヌキはまだ生きていたのです。
前肢で身体を起こそうとしても
へたりこんでしまう
ヒトに気付いても怯えた様子は見られませんでした
意識はあるものの外敵の接近に対して逃走しようとする反応がなく、首もフラフラしていたので意識障害を起こしていたのでしょう。
吐血はありませんが周囲にブドウの皮の塊があったので嘔吐していたことが分かります。
後肢が変な方に曲がっており立ち上がることもできなかったので、少なくとも腰椎~骨盤は骨折しているでしょうし、嘔吐していたことや朦朧状態であったことから内臓か頭部を損傷していた可能性があります。
見た目にも痛々しく「かわいそう」と感じられる状態です。普段死んだタヌキばかり扱っているので、稀ではありますがこの状態で発見すると毎回戸惑ってしまいます。
ここで私がどんな対処を選択したかというと、『路上から退避させて放置』でした。
路上から退避させたのは後続車の事故やタヌキを食べに来た動物の二次的な事故を防ぐためです。
この状態のタヌキを放置することに対して批判的な考えを持たれる方もいると思いますが、それこそ先述した「一側面しか見ていない」考え方です。私のブログを読まれている方の中にはいないかとも思いますが。
では、なぜ放置するのか?
一般的にケガをした動物を助けることは美談とされる傾向がありますが、野生動物だっていずれは死ぬものですから、生きるか死ぬかは自然に任せるのが望ましいです。
そしてここで議論になるのが、「交通事故によるケガはヒトの活動に伴って生じるものであり自然死とは異なる現象。ヒトが責任をもって救護すべきでは?」という考えです。
これについては私も悩ましいとは思いますが、ヒトも自然に関わりながら生きる生物である以上、意図せず野生動物を傷つけてしまうことも自然界の出来事と捉えています。
動物を傷つけることを目的として意図的にケガをさせる事案はそうそうないと思いますが、その場合は状況に応じて違った判断が求められるでしょう。
そして、タヌキは狩猟対象であり、地域によってはヒトの生活に悪影響を及ぼすこともあるため、そうした人々にとっては生かすこと自体に意義がないと認識されていることも忘れてはなりません。
すると今度は、「助けられないなら、せめて苦しまないよう安楽死させてあげたい」という意見が出てきます。
安楽死なら死を回避できずとも苦痛から解放させることはできるので優しい選択ですね。しかし、どんな状況・状態であっても無許可で野生動物を捕獲・殺傷することは認められていません。
自らの手で殺すことも獣医師の元へ連れていくこともできないならば、そのまま死ぬのを待つしかありません。そもそも野生動物は交通事故以外でもケガを負ったり病気になったりして長く苦しみながら死ぬ個体もゼロではないですから、交通事故の犠牲者だけ苦痛から解放してあげようというのはおかしいです。
そして助からない状態に見えても自然治癒して山に戻っていく場合もあるので、転帰がどうなるかはその場で判断することはできません。回復してたかもしれない個体を安楽死させてしまったら取り返しがつきませんね。
私もこのタヌキを助けたいという感情がないわけではありません。それでも、感情と切り離した判断が必要なことを知っているため、心を鬼にして放置する選択をしています。
動物種によっては救護が必要な種もいますし、救護活動をしている方にも敬意をもっています。但し、それはその方々に専門的な知識と設備があり、望ましい野生動物との関わりを理解した上で矛盾を認識しつつも活動されているからです。
自分の感情的な意見を正しいと信じて野生動物とヒトとの関係性を考慮せずに救護だけを求めるくせに、実行や費用負担を他者に委ねる所謂『動物愛誤』には敬意を持てません。
死ぬものは死ぬ。生きるものは勝手に生きる。それが自然界です。少なくとも私を含め一般人が手出しして良い領域ではないというのが私の考えです。
私もかつて無知だった頃にはケガをしたタヌキを拾って動物病院に連れていこうとしたことがあるので、反省すべき点はあります(「死んだら骨に…」という目的はありましたが)。結局その個体は搬送中に亡くなり標本ケースに収まりました。
あと、野生動物を動物病院や動物園に運び込むことは他の患畜や飼育動物への感染リスクもありますし、対応にかかる手間や費用の負担など施設に迷惑をかけることになります。あのとき連れていけなくて良かった。
ですが、その経験があったからこそ野生動物の救護に関する情報を意識して集めるようになり、今の考え方に至った経緯もあるので、救護推奨派の方も知識を得て考えが改まってくれることに期待したいです。
ケガをした野生動物の取り扱いについては『傷病野生鳥獣』で検索すると各自治体のホームページで説明されています。
いずれも要約すると「野生動物に余計なことしないでください」って内容です。
救護対象は限定的で、ほとんどは特別天然記念物や絶滅危惧種で、治療によって自然に還せる可能性がある状態であることが条件のようです(他にも判断基準はありますが)。
もしケガをした動物を発見して対処に困ったら発見地の自治体に問い合わせてみましょう。
尚、翌日現場を見に行きましたがタヌキの姿はありませんでした。自力で移動することはできないので、死んで回収されたか生きて回収されたか…、行く末を知る術はありません。
それでは、また。