スカベンジャーの標本部屋

本業は看護師ですが、趣味で動物骨格標本を作成しています。

テン

 ある朝起きたら虫屋の先輩から「◯◯に向かう途中でロードキル見つけました。見つからないように側溝に隠しておいたよ」とのメールが届いていました。

 写真も添えられており、若いテンだとわかりましたが、詳しい場所は記されていません。ちなみに◯◯は先輩と息子さんがよく昆虫採集に行く山を示す地名です。

 

送られてきた写真

 

 まだ朝4時でしたが先輩に場所を確認するメールを送り、とりあえず先輩の家から◯◯までの道のりを辿って行くことにしました。

 手掛かりは大雑把な場所と写真だけ。

 写真に写っていた枝の形を記憶して、走りながら側溝沿いに落ちてる枝を見て判断するしかないか?

 

 ◯◯付近の駐車場あたりから側溝が有ったので一旦車を降りて中を覗きながらしばらく歩いてみましたが、枝葉がたくさん落ちているだけで何も見付かりません。

 車に戻りさらに先に進んでまた側溝を覗き…ということを繰り返していたら、生きたテンが道路脇でピョンピョン跳び跳ねて藪に消えていました。

 

 そして先輩から返信が。

 GoogleMapのスクショとともに詳しい場所の説明が添えられており、ようやく場所が判明したのですが、そこは最初に覗いた側溝でした。来た道を引き返し、教えられた場所の側溝を慎重に覗いてみます。

この辺?

何か黄色いものが、

あったー!

 

 上に葉が覆い被さっていてテンも半分に折り畳まれていたので、パッと見でわからなかったのも無理はありません。

 

若いメス

 

 出血も骨折も外からは確認できませんでした。

この顔を見ると『ハクメイとミコチ』の鰯谷を思い出します(あっちはイタチですが)。

 いそいそと遺体を回収し妻が起きる前に無事帰宅。大丈夫、バレてないね。

 

 感染対策のために本当は一旦冷凍するべきですが、入らないのでその日のうちに処理しちゃうダメな大人です。

 

全身

 

 皮を剥いてみると頭頂部に血腫が見られました。よくあるパターンで、外から触っても分からないけど実は頭蓋骨が割れていたというやつ。

 かと思いきや、除肉したところ骨は無傷でした。皮下出血で済んでいたようです。

 

剥皮

 喉の辺りに出血があったので、肺がやられてたのか。

 

 若いから余計に毛が柔らかくふわふわしてます。

 

みんな大好き『内臓セット』

 胃内容物は昆虫でしたが種類は不明。

 

 あとはチマチマ除肉していきます。

 肋骨の付け根にもわずかに出血があり、頭部と胸部を打撲したことが死因かと思います。

 

 若いテンは初めてでしたが、小さいので骨をバラけさせないようポリデントに浸けておきます。

 

 この日もとんでもなく暑かったです…

こころの健康出前講座

 今日は仕事の話。というか広報をさせていただきます。

 

 日本精神科看護協会で行っている事業のひとつに『こころの健康出前講座』というものがあります。

 事業の概要は下記の通りです。

①目的

地域住民を対象にこころの健康に関する研修会・講演会・相談会等を開催することで、地域住民のこころの健康を維持・向上することと、精神障害への理解を深めること。

②講師

日本精神科看護協会に所属する看護師のうち、各都道府県支部から認められた者で、私と同じく精神科認定看護師も多く講師登録しています。

看護師という立場ならではの技術・知識・経験に基づき依頼者の希望するテーマに沿って講演します。

③対象

地域住民(地区の集まり、自治体、企業、学校、福祉施設など)。

医療施設以外ならどこからでも、誰でも依頼することができます。

人数も決まりはないので、数人から100人単位の受講まで幅広く対応可能です。

④費用

講師料、交通費は無料です。

会場の準備や使用料、資料印刷代などの実費は依頼者側で負担いただきます。

⑤テーマ

こころの健康に関することなら何でもOK。

依頼者の希望するテーマ、開催方式で行います。

⑥依頼方法

日本精神科看護協会HPより申込書をダウンロードし、内容を記載してメール/FAX/郵送でお送りいただくと、各都道府県支部から選定された講師が依頼者に返信します。

(登録講師一覧から講師を選ぶこともできます)

 

詳しいことは協会HPでご確認ください。

https://nisseikan.net/kokoro/demae/

 

 私も何度か出前講座を実施しご好評をいただいておりましたが、実はこの事業どころか協会の存在自体が一般に認知されていないのが現状で、ご依頼をいただく機会が少ないのです。

 なのでこの場を使ってお知らせさせてもらいました。

 

 労働者の過労死、高齢化に伴う認知症の増加、児童・高齢者・障害者虐待、有名人の自死や未遂など、こころの健康に関連する問題が報道される度に自身や身近な人のことが心配になる方も多いかと思います。

 そんなタイミングで広報するのは人の不安感につけ込んでいるようで嫌なので、なるべく報道が落ち着いている時にお知らせしようと考えていたのですが、そんな日は来ないと気付いたので、もうやっちゃいました。

 

 私が精神科で働くことを選んだのは、地域の認知症ケアをより良くしたかったから。そして精神科認定看護師を目指したのは、岩手の自殺対策について力になりたかったから。という背景もあり、自分の目的と地域の保健衛生のためにも、こうした活動は非常に重要だと考えています。

 そして岩手の方は私の講演を聴けるチャンスでもあります!

 

 協会HPをご覧になり、興味をもっていただける方が一人でも増えてくれると嬉しいです。

角のある子

 日曜日の夕方、『肉』と書かれたデカ重い箱が届きました。

 

あやしい中身

 

デカい鍋に入れて一日半解凍します

 

立ち位置間違えて影が…

 

 今回届いたのは『ピグミーゴート』いわゆるミニヤギでした。

 動物園などのふれあいコーナーでおなじみの動物でペットとしての人気もあり、珍しい種ではありません。でも、こと標本となるとヤギの頭骨は販売されていますが、国内で全身の骨が売られている例はほとんどありませんので、貴重な資料であることは間違いないでしょう。

 この機会を提供してくださった飼い主様と仲介者とヤギに感謝と敬意をもって取り扱わせていただきます。

 

 先述の通り家畜としてだけでなく愛玩動物としての認知度も高いので、ヤギの解体に抵抗がある方は今のうちに引き返しましょう。

 今回も赤い画像が多めになります…

 

 尚、今回この記事を公開するにあたり先に説明しておくことがあります。

 ヤギは『と畜場法』という法律の対象とされています。この法律は食用を目的とした獣畜(牛、馬、豚、めん羊及び山羊)の解体やそれに伴う廃棄物の処理などに関する規則や措置を定めることで、食品や廃棄物を介した国民の健康被害を予防する目的の法律です。

 この法律の第十三条には『何人も、と畜場以外の場所において、食用に供する目的で獣畜をとさつしてはならない』『2項 何人も、と畜場以外の場所において、食用に供する目的で獣畜を解体してはならない』とあります。つまり「と畜場以外の場所でヤギを屠殺すること、と畜場以外の場所で解体したヤギを食べることは禁止ですよ」ということです。

 では、今回私が自宅でヤギを解体するのはどうなのか?となりますが、この法律では「食用に供することを目的とした解体」が対象であるため、食用を目的としない解体は対象外であると解釈しております。逆に言うと、一口でも肉や内臓を食べてしまったら違法となります。

 某動画サイトでは、飼育していたヤギが亡くなったので自宅(風呂場)で解体して食した人の動画がありましたが、それはアウトですね。しかも死因不明なので危険性はより高いです。気持ちは分かりますし非難するつもりまありませんが、自分の行動を公にする場合、それが法律も含め社会的にどう捉えられることなのか・どのような影響を与える得るかをよく考える必要はあるでしょう。

 

 というわけで、今回ヤギ解体の記事を公表するにあたり以下の3点を明示しておきます。

1.今回のヤギの解体は、身体構造の観察及び骨格標本の作成を目的としています

2.解体したヤギは、どの部位であっても決して食べません。また、他者にも食用を目的とした譲渡・販売はしません

3.解体によって出た肉や内臓、血液等の残滓は感染管理・公衆衛生に配慮して適切に処理します

 

 長い長い前置きがようやく終わりました。本題に入っていきましょう。

 

 この個体はまだ子どもでした。体重7.1kg。全体的に痩せた感じで見た目以上に軽く感じます。牧場の香りがすごい。

 

顔。この写真も自分の影が邪魔に

 虚ろな瞳が切ないです。

 

前肢 

 蹄もまだ未熟で、柔らかく綺麗です。副蹄もゴムみたい。

後肢

 

メスでした

 

皮を剥いた状態

 やっぱり痩せてますね。

 

前肢

 

後肢

 前肢後肢ともに筋肉の張りがなく、骨が浮き出ており、触るとぶよぶよと水っぽくスライムのような感触です。

 私の経験上、老化や病気などで衰弱した動物の筋肉はこのようになることが多いように思います。不謹慎な表現ではありますが、終末期のヒトの筋肉も同様の感触です。

 動物もヒトも病気や老化によって生じる身体変化には共通する点も多いため、動物の観察や実験は医学にも活かされてきました。なので動物の身体を知ることは看護師として患者をケアする際に活かせることもあるかもしれません。

 

 口腔内には草が残っていました。

 

内臓

 左側の大きな袋が胃です。ガスでパンパンに膨らんでます。

 右側にあるのは膀胱と直腸です。

 

気管~肺・心臓

 

 開いてみます↓

 

第一胃(ミノ)

第二胃(ハチノス)

第三胃(センマイ)

第四胃(ギアラ)

 焼き肉ではミノとハチノスが好きです。

 

肝臓と胆嚢

腎臓(左側は開いた状態)

腎臓開きのアップ

最終的にこうなる

 

 身体は痩せていましたが餌は食べていたようで、素人目には死因を特定できるような所見を見つけることができませんでした。

 この後はいつも通り、排水溝ネットと野菜ネットに入れて水に浸けます。

 

 この日は宿直明けでして、宿直って24時間勤務なんですよ。その後で炎天下の長時間作業。めちゃくちゃ疲れました。

 

 それでは、また。

 

ナマケモノ現況

 ブログをしばらく放置していましたが、一応生きてます。

 同じく放置されていたナマケモノ。先日リクエストがあり人に見せることになったので、冷凍庫から引っ張り出し触っても大丈夫な状態まで処理(煮沸・消毒、乾燥)しておきました。

 中途半端な状態で申し訳なかったですが直に見て触れる機会はめったにないので、皆さんに好評だったようです。特徴的な部分を見ながら、あーだこーだと意見が飛び交い、とても面白かったです。

 複数の人と標本を観る利点は、自分にはなかった着眼点や考察を知れることですね。

 

 さて、そんなナマケモノ。まだ時間は十分とれる状況ではないですが、大きい仕事を1つ片付けたので、少し処理を進めておりました。

 徐肉の段階では見えなかった部分も徐々に明らかになってきましたよ。

 

右前肢

 やはり腕長いですね。肩甲骨は四足歩行する動物よりヒトに近い形をしています。

 『フタユビ』と名はありますが、爪のある指の両側には退化した指がありました。

 

爪と末節骨

 末節骨に被さっている爪を勝手に「爪カバー」と呼んでいます。末節骨は爪カバーよりカーブが緩やかです。でも先端は鋭く、十分な凶器となりそうですね。

 

右後肢 

 こちらも退化した趾が見えます。脛骨と腓骨の隙間が広く、後肢らしくないです。むしろサルの前肢に近い?

 大腿骨頭も若干前向きで、大腿骨頭靭帯が無いのでツルツルしてます。

 立位をとらない(とれない)ので、こういう形になっていったのでしょう。形からは前肢と同等の機能をもっているように見えます。

 

 いよいよ頭です。

 

 縫合線がありません。イタチ科も頭骨の縫合は癒合していきますが、ナマケモノはもっとのっぺりしています。

 写真では伝わらないでしょうが同じサイズのタヌキやイヌと比べても、骨の厚みが桁違いで、ずっしりとした重厚感があります。

 

 歯は外して別個にしております。

 犬歯の断面が三角形。

 門歯はなく、鋭い犬歯1対と鋭い臼歯4対があります。歯の特徴は草食動物というより、トドに似てると思いました。

 

歯無しの外側面もまた良い。

 上顎犬歯の後ろに下顎犬歯が収まる凹みがあります。

 頬骨の下の出っ張りは何なんでしょう?

 これ絶滅種のメガテリウムにもありましたね。

 

正面から見ると吻が丸くて可愛い

 

 写真撮り損ねててギリギリまでアップしたので見辛いですが、篩骨は袋状でした。ネコ目は蜂の巣状、シカは渦巻き状など、グループによって形状が異なりますが、ナマケモノは珍しい形をしています。

 

外耳道

 耳介は毛に隠れるほど小さいのに外耳道は意外に大きいです。

 中に針状の骨が見えますか?耳小骨だと思って外しておこうとしたんですが、取れないんですよ。

 しかも他の動物では外耳道の先は袋状の鼓室胞になってるのに、下に穴がありました。なぜ?

ピンセットが貫通するくらいの隙間があります。

 

比較用のタヌキ

 

ナマケモノ:外耳道(🔻)から鼓室胞(🔺)まで距離があります

 

タヌキ:外耳道と鼓室胞は一繋がりです

 

あと、翼状突起

タヌキ:見慣れてるのはこのタイプ。翼状突起は鼓室胞と離れています。

 

ナマケモノ:翼状突起が鼓室胞まで繋がっていました

 

あと下顎

 こっちも門歯はなく、犬歯1対、臼歯3対。犬歯の前に上顎犬歯が収まる凹みがあります。

 

 まだまだ十分に観察できていませんが、ナマケモノは骨になっても興味を惹かれる動物ですね。

 

 なお、日本に生息するイヌ科の肉食動物と南米に生息する草食動物であるナマケモノを比較することは正しいといえないかもしれません。

 でも、自分が普段見慣れているものと、新しく出会ったものとを比べることで、双方の違いが理解しやすくなりますし、タヌキを引き合いに出しましたが今回お話しした部分に関してはイヌ、ネコ、キツネ、アナグマなどとも共通する形態です。

 学術的な観察・分析ももちろん重要ですが、当ブログは素人向けなので、まずは身近な動物と比較してみてナマケモノの面白さを知り、「動物の身体の構造を知ることは面白い」と思ってもらえたら良いなと考えております。

 

 と、今回の記事を作成している最中に某所から連絡をいただきまして、新たな動物を引き受けることになりました。

 次はどんな発見があるでしょうか。

 

 それでは、また。

外来魚をいただきました

 先日Twitterで北総水産様が「アメリカナマズをペットの餌、あるいは食用として欲しい方に無料で差し上げます(送料着払いで)」という旨の告知をされていたので、早速食い付きました。

 写真にミシシッピアカミミガメブルーギルも写っていたので、これらも貰えないか尋ねてみたところ快諾してくださいました。

 

 そして届いたのがこちらの方々。

上・中:アメリカナマズ3尾(1尾は写ってません)

下:ライギョ1尾

ミシシッピアカミミガメ2匹

ブルーギル1匹

 

 ライギョは頼んでいませんでしたが、外来生物の食と標本に興味があることを伝えていたので気を遣って同梱してくれたようです。ラッキー!

 岩手にもライギョはいるそうですが、分布は限局的で盛岡にいるという情報はありません。もちろんアメナマもいません。

 テレビや他のブログ等で彼らが美味しいという話を見聞きして興味があったので、食べ比べのチャンスです。

 

 今回はアメナマ2尾とライギョを捌いて食べることにしました。

 

解凍後のライギョ。ヌメりが凄いです。

横顔のフォルムはピラルクみたい。

ヘビのような頭。

 

肛門は中央より前側にあるんですね。

 

とりあえず三枚おろしにしていきます。

 身は若干ピンク味を帯びた白身です。腹骨が尾まで続いており、この中には鰾?が収まっていました。変わった造り。

 見慣れない体型と構造に戸惑いましたがなんとか綺麗に捌けました。

 

続くアメナマ。

 やはりヌメリますが、お湯で洗い流しながらこそいだらすぐに落ちます。既に頭と胸鰭、背鰭、内臓は取り除かれていましたが、鰭は危ないですからね。これだけでも結構な手間なのに無料って、どんだけ懐が広いんでしょうか。

 おかげで捌くのは楽でした。

 白身ですがやや黄色みがあります。

 腹骨の付いた腹身も普段は捨てますが、肉厚なので取っておいて別個に食べてみます。

 

身質の比較(上:アメナマ、中・下:ライギョ)

 

 匂いですが、意外とどちらも臭みはほとんど感じず、顔を近付けて嗅いでようやく魚の「香り」がする程度です。身も皮も臭くない。スーパーで買ったアジやサバの方が匂いは強いくらいです。

 そういう魚種なのか、生息環境のおかげか、捕獲後の処理が良かったのか、私の鼻がおかしいのかわかりません。一応皮も剥いでいましたが、これなら皮付きで調理しても良かったかも。

 

 さて、とりあえず『揚げ』と『煮』で調理していきましょう。

 

揚げました(左:アメナマ、右:ライギョ)

 

 アメナマは身がふわふわ・プリプリでタラに近いですが、タラよりも噛み応えがあり、臭みもなく甘味を感じました。旨い! 

 腹身揚げは加熱によって丸まってしまい、肋骨もあるので食べにくかったですが、食感がブリッブリで伊勢エビのようでした。もはや魚とは思えない食感に驚きです。

 ライギョは身の密度が高いのに繊維は柔らかいので、歯切れが良いです。サメとサケを合わせたような感じでしょうか。味ははっきりしませんが味付け次第で色々楽しめそうです。十分旨い!

 

 あと、食べてみて気付きましたが、どちらも小骨(上神経骨、上椎体骨?)がないので三枚におろしてしまえば腹骨以外は骨を気にせず食べることができます。

 

煮ました(上:ライギョ、下:アメナマ)

 

 こちらも両方臭みはなく、やはりライギョの方が若干固めになるものの、歯切れは良く、煮崩れないので扱いやすいです。ナマズは結構縮みましたがプリプリ感が増して面白い食感でした。味も良い。

 

 ライギョは原産国に倣ってスパイスやハーブも加えてエスニック風にするか、サケと同じような扱い方でも良さそうですね。

 ナマズは定番の蒲焼きもやってみたいですし、汁物や鍋も合いそうです。

 

 寄生虫が怖いので通常より加熱はしっかりしたのですが、全然硬くならないのもありがたかったです。

 妻はこういった野食が苦手なのであまり食べたがらないのですが、夕飯に出したら食べてくれました。ライギョの方が好みだったそうです。サケ好きだからかな。

 私はナマズの方が好みでした。本当に美味しい、しかもヌメリさえ取ってしまえば捌くのも簡単な部類で、さらに小骨がないので子どもでも食べやすいでしょう。

 

 とにかくアメナマもライギョも食用としてのポテンシャルはスーパーで並ぶ食用魚にひけをとらない、むしろ勝るレベルのものであることがわかりました。本当に定期的に食べたい魚達です。

 みんなも沢山食べて駆除に貢献しましょう!

 

 これだけの手間とお金をかけて美味しい魚達を送ってくださったので「お礼を送りたいんだけど何がいい?」って聞いたら、大喜びで「環境問題や生物多様性問題に関するアドバイスと意見を頂戴したいです♪」って返ってきて、「超イケメンやん!」って思いました。

 漁師という立場で外来生物や環境の問題に直面しながら、どうにかしようと真摯に取り組んでおられる姿勢に尊敬と感謝の念を抱かずにはいられません。

 

※アメナマ以外の外来生物もお送りいただいた件については北総水産様から許諾を得てブログに載せております。

 欲しい場合には先方に連絡すれば対応してくださると思いますが、ご依頼の際は本業に差し障りのないよう配慮することと、必ずしも希望する種が獲れる訳ではないことをご理解くださいますようお願い申し上げます。

 

 それでは、また。

タヌキの胃から出てきたモノ

 うちの娘、パンの耳や表面が好物なので変な食べ残しをする。

前世はダルマザメかエロンガータピラニ

 

 3月前半に冷凍庫が壊れ、小さい物は実家の使ってない冷蔵庫の冷凍室になんとか詰め込めたものの、容量を占めていたタヌキ2頭はさすがに入らないので急遽処理することになりました。

 とは言えこの2週間は仕事やら娘の受診やら用事が立て込んでおり、なんとか捻出できた時間は2日間で計4~5時間。

 

 そんな状況を認識していながらまた新たなタヌキを発見してしまい、放置する訳にもいかず回収したものの、自分では処理できないため送り先を探して各方面へ迷惑をかけてしまったり…

 

 とりあえずタヌキが腐る前に処理をしました。急いでいたので写真はほとんど撮れていません。

 

 

頭目・♂

 

 口から少量の出血がありましたが外傷は見られません。

 でも開いてみると頬骨、肋骨、肩甲骨、大腿骨、骨盤が骨折しており、内臓もグズグズ…

 皮を剥いて解体、除肉し乾燥させて暖かくなるまで様子見(まだ寒いので水に浸けると死蝋化しちゃうので)。

 

 

頭目・♂

 

 こちらも目立った外傷は見られず、左大腿部に小さな裂傷がある程度。

 全身疥癬だらけ。特に頭部、下半身の症状が著明です。本当は細かく観察して写真を撮っておきたかったのですがね。

 

 疥癬のせいで皮膚が肥厚し脆くなっており、剥皮が難しかったです。

 皮下脂肪はほとんどなく、筋肉も痩せていました。この状態でよく冬を越せたなと思いましたが、痩せていた原因はどうやら疥癬だけではなかったようです。

 

 内臓を確認すると心タンポナーデになっており、肺も数ヶ所裂傷していました。おそらくこれが死因。腹部臓器は無傷でした。

 吻部、下顎、右肩甲骨に骨折、左大腿部に皮下出血あり。

 

 「さて、胃内容物は何かな?」

胃から出てきたケミカルな色合いの塊

 

 何コレ?

 パッと見、シルエットはネズミかヒミズのようですが、自然界に存在しないような鮮やかな青い線が所々に見られます。

 

ほぐしてみた

 

 どうやら黒と青はゴム、オレンジは繊維のようです。ゴム表面の形状と最後の写真右端の青い形からゴム手袋の指部分と推測。発見場所も酪農地域だったので、農作業に使用していた物か?

 胃の中には他に食物は見られず、腸内も空で便は液状でした(普通は固形)。

 おそらく何かしら餌の匂いが付いた手袋が落ちたか捨てられたかして、それを発見したこの個体が食べてしまったのでしょう。当然消化できないので胃に留まり続け、餌も摂れなくなっていたと考えられます。

 

 餌も少ない冬の時期、疥癬で体温調節もできず、ようやく口にできたのは栄養にならないゴム手袋。下痢だけでなく腹痛、吐き気もあったと思われます。

 体力、思考力の低下した状態でさ迷っている所、路上に出て轢かれたのかもしれませんね。

 この個体は車に轢かれなくとも遅かれ早かれ亡くなっていたでしょう。

 

 動物の遺体を観察していると、このようにロードキル以外にも人間の生活が野生動物に及ぼす影響を見つけることがあります。自分自身がその一端を担うことのないよう、気を付けたいですね。

 

 それでは、また。

 

*おまけ

後日、ホームセンターでゴム手袋の正体が判明しました。

店頭価格税込877円

夢が叶いました

 みなさんは骨格標本を作る際に何を参考にしているでしょうか?

 私が骨格標本作りを始めたのは18~19年前で、当時ネットで情報収集しても詳しい作製方法を紹介しているサイトもほとんどありませんでした。そんな中、某動物病院長のブログが骨格標本作りの参考として一番役に立っており、そこからなにわホネホネ団の存在も知りました。

 

 そんな院長のブログの中で一番印象深かったのが『シークレット』の回で、院長に「何がどうなっているのか、とにかく奇妙」と言われていた動物。載っていた写真や説明だけでなく、もっと知りたいと興味を惹かれたものの、少なくとも一生自分の手元に来ることはない種であろうと諦めていたのですが、先日知人の紹介により入手することができたのです。

 一応断っておきますが、合法なルートです。 

 

 という長い前置きでしたが、今回の対象は『フタユビナマケモノ

解凍後の姿

 後肢の向きどうなってるのかと思ったら、あぐらをかくような形になっていました。

伸ばすとこんな感じ。全体のフォルムも四肢の形状も見慣れない異質感が漂っています。

 体長66cm、体重3.9kgのメスでした。

 

 体毛は長くてカールして、絡み合っています。上半身はそれなりに流れがあるものの、下半身の毛はあっちこっちに流れてる印象。ゴワゴワしててフケも多いです。

 気になる匂いですが、獣臭さはなく、どこかで嗅いだことのある匂い。清潔なペットショップか牧場のような雰囲気に草の香りが紛れています。これがナマケモノの匂いなのか、個体差なのかは不明ですが。

 

前肢の爪。長い方で8.2cmありました。

 

後肢の爪。前肢よりは若干カーブが緩い。

 手掌や足底は意外に肉球より柔らかく、スベスベしています。

 

横顔。耳は?

毛を掻き分けたらありました。

耳アップ。生体ではなかなか見ることができない部位ですね。

 

お尻。黄色矢印が尾(2cm)、赤矢印が肛門。

 

見辛いですが、膣孔。肛門と繋がっています。

 

 ここから皮を剥いていきますので、赤い画像が苦手な方はお引き返しください。

 

 

剥きました。

 毛が絡まっている、慣れない身体構造、皮膚が厚くて硬い部分がある、皮筋?なのか皮膚と繋がってる筋肉が多い、など皮剥きは容易ではありませんでした。ここまで剥くのに2時間半かかり、皮膚を支えてきた左手の握力が限界を迎えたので、この日の作業はここで終了。

 印象としては全部が細い。現地では食用にもされているそうですが、食べるところは無いんじゃない?キングコングと闘ってたやつに似てます。

 前述の院長も四肢の筋肉のなさにビックリしていましたね。

 

うんち。肛門が開ききっててポロポロこぼれてきました。

 

腹。日陰になってしまいました。

 胸骨に繋がる肋骨は12対、繋がらない肋骨は11対の計22対。ちなみに人間は12対。

 

前肢

後肢

 

 とりあえずここまで。

 中身のお話は次回。

 

 ナマケモノの解剖写真はネットでも中々ヒットせず、英語のサイトでいくつか見つかる程度なので、実物をじっくり観察できるって本当にレアな体験でした。

 

 それでは、また。