スカベンジャーの標本部屋

本業は看護師ですが、趣味で動物骨格標本を作成しています。

ナマケモノ現況

 ブログをしばらく放置していましたが、一応生きてます。

 同じく放置されていたナマケモノ。先日リクエストがあり人に見せることになったので、冷凍庫から引っ張り出し触っても大丈夫な状態まで処理(煮沸・消毒、乾燥)しておきました。

 中途半端な状態で申し訳なかったですが直に見て触れる機会はめったにないので、皆さんに好評だったようです。特徴的な部分を見ながら、あーだこーだと意見が飛び交い、とても面白かったです。

 複数の人と標本を観る利点は、自分にはなかった着眼点や考察を知れることですね。

 

 さて、そんなナマケモノ。まだ時間は十分とれる状況ではないですが、大きい仕事を1つ片付けたので、少し処理を進めておりました。

 徐肉の段階では見えなかった部分も徐々に明らかになってきましたよ。

 

右前肢

 やはり腕長いですね。肩甲骨は四足歩行する動物よりヒトに近い形をしています。

 『フタユビ』と名はありますが、爪のある指の両側には退化した指がありました。

 

爪と末節骨

 末節骨に被さっている爪を勝手に「爪カバー」と呼んでいます。末節骨は爪カバーよりカーブが緩やかです。でも先端は鋭く、十分な凶器となりそうですね。

 

右後肢 

 こちらも退化した趾が見えます。脛骨と腓骨の隙間が広く、後肢らしくないです。むしろサルの前肢に近い?

 大腿骨頭も若干前向きで、大腿骨頭靭帯が無いのでツルツルしてます。

 立位をとらない(とれない)ので、こういう形になっていったのでしょう。形からは前肢と同等の機能をもっているように見えます。

 

 いよいよ頭です。

 

 縫合線がありません。イタチ科も頭骨の縫合は癒合していきますが、ナマケモノはもっとのっぺりしています。

 写真では伝わらないでしょうが同じサイズのタヌキやイヌと比べても、骨の厚みが桁違いで、ずっしりとした重厚感があります。

 

 歯は外して別個にしております。

 犬歯の断面が三角形。

 門歯はなく、鋭い犬歯1対と鋭い臼歯4対があります。歯の特徴は草食動物というより、トドに似てると思いました。

 

歯無しの外側面もまた良い。

 上顎犬歯の後ろに下顎犬歯が収まる凹みがあります。

 頬骨の下の出っ張りは何なんでしょう?

 これ絶滅種のメガテリウムにもありましたね。

 

正面から見ると吻が丸くて可愛い

 

 写真撮り損ねててギリギリまでアップしたので見辛いですが、篩骨は袋状でした。ネコ目は蜂の巣状、シカは渦巻き状など、グループによって形状が異なりますが、ナマケモノは珍しい形をしています。

 

外耳道

 耳介は毛に隠れるほど小さいのに外耳道は意外に大きいです。

 中に針状の骨が見えますか?耳小骨だと思って外しておこうとしたんですが、取れないんですよ。

 しかも他の動物では外耳道の先は袋状の鼓室胞になってるのに、下に穴がありました。なぜ?

ピンセットが貫通するくらいの隙間があります。

 

比較用のタヌキ

 

ナマケモノ:外耳道(🔻)から鼓室胞(🔺)まで距離があります

 

タヌキ:外耳道と鼓室胞は一繋がりです

 

あと、翼状突起

タヌキ:見慣れてるのはこのタイプ。翼状突起は鼓室胞と離れています。

 

ナマケモノ:翼状突起が鼓室胞まで繋がっていました

 

あと下顎

 こっちも門歯はなく、犬歯1対、臼歯3対。犬歯の前に上顎犬歯が収まる凹みがあります。

 

 まだまだ十分に観察できていませんが、ナマケモノは骨になっても興味を惹かれる動物ですね。

 

 なお、日本に生息するイヌ科の肉食動物と南米に生息する草食動物であるナマケモノを比較することは正しいといえないかもしれません。

 でも、自分が普段見慣れているものと、新しく出会ったものとを比べることで、双方の違いが理解しやすくなりますし、タヌキを引き合いに出しましたが今回お話しした部分に関してはイヌ、ネコ、キツネ、アナグマなどとも共通する形態です。

 学術的な観察・分析ももちろん重要ですが、当ブログは素人向けなので、まずは身近な動物と比較してみてナマケモノの面白さを知り、「動物の身体の構造を知ることは面白い」と思ってもらえたら良いなと考えております。

 

 と、今回の記事を作成している最中に某所から連絡をいただきまして、新たな動物を引き受けることになりました。

 次はどんな発見があるでしょうか。

 

 それでは、また。