たまにいるんですよ、骨折の治癒痕のある遺体というものが。
私が初めて骨格を組み立てたタヌキも肋骨に骨折の痕跡がありました。
車に轢かれた動物全てが亡くなる訳ではないので、無傷だったり多少の怪我で済んだりして生き延びられる動物もそれなりにいるのでしょう。
骨折くらいなら自然治癒するので、生きるのに支障はないかと思いますが、人と違って治療を受けることができないので、折れた骨は歪なままに固まってしまいます。
このような状態を『変形治癒』と言います。
今回ご紹介する症例は、道路脇で白骨化したキツネです。回収した際に大腿骨に変形治癒を認めました。
頭骨から見てみましょうね。
上面
右側
左側
頭部はバラバラでしたが破片を回収して組み立てました。左側頭部は無くなっていました。
場所、状態から死因はロードキルであったと判断しました。
頭骨の大きさ、骨の頑丈さ、歯の磨耗具合などから、老成個体のようです。陰茎骨もあったので、オスであることは間違いありません。
んで、右大腿骨。
正面
右側面
裏面
左側面
別個体の正常な大腿骨との比較
どんな折れ方をしたのでしょうね?
後ろに謎の突起があり、真ん中が曲がっています。
おそらく
①真ん中あたりで真っ二つに折れた後
②立ち上がった際に過重をかけたことで上側の部分が前下方にずれ込み
③折れた面同士が離れて
④上側の折れた面から新たに増殖した骨組織が破片を巻き込みつつ、下側の骨の前面と癒合した
のではないでしょうか。
後ろの突起は下側の折れた先端ですね。
その状態からは、かなり激しい骨折だったことが窺えますが、完全に癒合しているため受傷後も長期間生存したと考えられます。また、これほどの骨折は自然環境の中では起こりにくいため、車に轢かれたと考えるのが妥当でしょう。
つまり、この個体は1度車に轢かれて骨折したけど生き延び、再び轢かれて虹の橋を渡ったということがわかります。
他にも二度轢かれたと思われる遺体はいくつか見てきましたが、これほどの変形治癒は珍しいです。
変形だけでなく、長さも短縮しているため、右脚はほとんど機能していなかったでしょう。後遺症で痛みもあったかもしれません。肉食動物にとって走る機能が障害されることは生存にかなり不利となりますが、それでもこの年まで生き延びた生命力に感服しますね。
それでは、また。